会社員は、基本的に確定申告をする必要はありません。しかし中には、会社員でも確定申告が義務付けられているケースもあれば、義務がなくても確定申告しておいた方が良いケースもあります。
この記事では、会社員でも確定申告が必要な人、した方が良い人とはどのような人なのか詳しく解説します。よく確認した上で、確定申告すべきか判断しましょう。
※本記事は2024年12月時点の制度・情報を基に、個人(居住者)の所得についての税制を説明したものです。
確定申告とは?会社員でも確定申告は必要なのか?

そもそも確定申告とは、1年間の所得とそれにかかる税金を計算して確定させる手続きのことです。過不足なく正確な金額を納税するために行います。
会社員や公務員など雇用されて働いている人の場合、通常は勤務先が所得を把握していて、納税も「源泉徴収」という形で本人の代わりに行ってくれています。そのため、勤務先の年末調整で納税額を微調整するだけで済み、確定申告は不要になるのが一般的です。
ただし、例外もあります。
では、どんな場合に会社員でも確定申告が必要になるのか、具体的に見ていきましょう。
会社員で確定申告が義務付けられている人の特徴

会社員でも、確定申告が義務付けられているケースがいくつかあります。特に、次の条件に当てはまる人は注意が必要です。
【会社員でも確定申告が必要になるおもなケース】
・給与収入が2,000万円を超える人
・副業等からの所得が20万円を超える人
・2ヶ所以上から給与所得を得ている人
以下、それぞれ詳しく解説します。
給与収入が2,000万円を超える人
1年間の給与収入が2,000万円を超える人(超えた年)は、勤務先の年末調整の対象にならないため、確定申告が必要です。
例えば2024年の1月1日~12月31日までの給与収入が2,000万円を超えた場合、翌年2025年の2月16日~3月15日に確定申告を行うことになります。
副業などの所得が20万円を超える人
副業や資産運用など、勤務先で得た給与以外の収入(自身のビジネスからの収益や業務委託の報酬など)がある人もいるでしょう。
副業などの所得が年間20万円を超える場合、会社員でも確定申告が必須になります。なお、20万円以下なら確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要なので注意しましょう。
資産運用で利益を得た場合に確定申告が必要になるかは、行っている資産運用の種類によって異なります。例えば、不動産投資では不動産所得の金額に関わらず確定申告が必要ですが、NISA口座や特定口座で株式や投資信託の運用をしている場合であれば、利益の大小に関わらず確定申告は必要ありません。
詳しくは下記の記事で解説していますので併せてご覧ください。
あわせて読みたい
2ヶ所以上から給与所得を得ている人
複数の企業に勤めているなど、2ヶ所以上から給与所得を得ている場合も確定申告が必要です。
ただし、主たる収入(メインの勤務先からの給与所得)が年末調整済みで、それ以外の所得の合計が20万円以下の場合は、確定申告は不要で住民税の申告のみ必要となります。
なお、給与収入の合計が103万円以下の場合など、確定申告が不要でも、確定申告することで税金の還付を受けられるケースもあります。
確定申告する義務はないが、した方が良いケース
確定申告の義務はないものの、した方が良いケースについても見ていきましょう。
次のようなケースでは、確定申告をしなくても特にペナルティはありません。しかし確定申告をすることで、税金が還付される可能性があります。
・年間で10万円以上の医療費を負担した場合
・資産運用の収支がマイナスになった口座がある場合
・ふるさと納税でワンストップ特例制度を使わない場合
・ふるさと納税以外の寄付を行った場合
・住宅ローン控除を受ける初年度
・年末調整に抜け漏れがあった場合
以下、それぞれ解説します。
年間で10万円以上の医療費を負担した場合

多額の医療費を負担した場合は「医療費控除」の対象になる可能性があります。平均的な収入の人の場合、世帯で年間10万円以上の医療費を負担した時は確定申告すると良いでしょう。
控除対象になるのは最大200万円までです。医療を受けた際に生命保険の給付金や高額療養費、出産育児一時金などを受け取った場合は、その分を差し引いて実際の負担額を計算します。
また、対象の市販薬を年間1万2,000円以上買った場合、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の対象になります。セルフメディケーション税制とは、定期健康診断や予防接種など健康の保持増進及び疾病の予防に関する一定の取組みを行っている居住者を対象とした制度です。8万8,000円を限度として、対象医薬品の購入金額のうち1万2,000円を超えた金額の所得控除を受けることができます。
通常の医療費控除もセルフメディケーション税制も、確定申告しないと適用されません。両者は併用できないため、どちらの条件も満たす場合はより控除額が大きい(納税額を下げる効果が大きい)方を選びましょう。
資産運用の収支がマイナスになった口座がある場合

「株を売って損失が出た」など、資産運用の収支がマイナスになった口座がある場合も、確定申告を検討しましょう。確定申告をすることで損益通算や繰越控除が可能になります。
「損益通算」とは、その年に出た損失と利益を相殺することです。利益にかかる税金を抑える効果があります。損益通算しきれないくらい大きな損失が出た場合は、翌年以降3年間の利益と相殺できる「繰越控除」という仕組みも利用できます。
ただし、NISA口座など損益通算や繰越控除がルール上できない口座もあります。また、FXと株など損益通算できない組み合わせもあるので、よく確認しておきましょう。
ふるさと納税でワンストップ特例制度を使わない場合

ふるさと納税は、何もせず自動的に税金が還付されるわけではありません。ふるさと納税ワンストップ特例制度もしくは確定申告いずれかの手続きが必要です。
ワンストップ特例制度は、確定申告の手間を省くためにできた特例です。ふるさと納税先が5ヶ所までなら、ワンストップ特例制度の申請書を提出するだけで手続きできます。手軽に済ませられるため、通常はこちらを利用するのがおすすめです。
しかし、6ヶ所以上の自治体にふるさと納税した場合や、ワンストップ特例制度の期限に間に合わなかった場合など、ワンストップ特例制度を利用できないケースでは確定申告をしましょう。
ふるさと納税以外の寄付を行った場合

被災地支援やNPO団体への寄付など、寄付先によっては「寄附金控除」の対象になる場合があります。対象になる寄付を行った時は、確定申告をすることで納税額を抑えられます。
例えば以下のような寄付先への寄付は、控除の対象になる可能性が高いです。
・国や地方公共団体
・独立行政法人、公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人
・政党、政治資金団体
・認定NPO法人(特定非営利活動法人のうち一定の要件を満たすと認められたもの)
なお、学校の入学に関してする寄付や、寄付した人に特別な利益が及ぶものなどは認められません。寄付する前に、寄付先に控除の適用について確認しておくと良いでしょう。
住宅ローン控除を受ける初年度

住宅ローン控除を利用する場合、1年目のみ確定申告が必要です。住宅ローン控除の有無は納税額に大きく影響します。ローンを組んでマイホームを購入したら、翌年に確定申告するのを忘れないようにしましょう。
住宅ローン控除の確定申告では、さまざまな書類が必要になります。例えば以下のようなものです。
・借入金の年末残高等証明書
・登記事項証明書
・売買契約書の写し
・(条件に応じて)長期優良住宅の証明書、補助金決定通知書など
スムーズに手続きできるよう、関係書類を1ヶ所にまとめておくと良いでしょう。
なお、2年目以降は勤務先の年末調整で手続きできるため、確定申告は不要です。
年末調整に抜け漏れがあった場合

勤務先での年末調整に抜け漏れがあった場合は、確定申告を行いましょう。
特に次のような場合は、控除の適用が漏れてしまう可能性が高いため要注意です。
・書類提出が年末調整の期日に間に合わなかった
・退職・転職して年末調整を受けそびれた
・年末調整を受けたあと、家族構成などに変化があった
勤務先によっては、上記のような場合に修正の対応をしてくれることもあります。しかし、そうでない場合は自分で確定申告が必要です。
なお、年末調整と確定申告、両方行っても問題ありません。
【会社員向け】確定申告のやり方と注意点

「確定申告した方が良さそうだけど、手続きが難しそう」と感じる人もいるでしょう。しかし、会社員の確定申告は、自営業者や個人事業主に比べて簡単にできます。
最後に、会社員が確定申告をする場合のやり方と注意点を見ていきましょう。
会社員の確定申告に必要な書類
確定申告の前に、まずは必要な書類を揃えます。必要なのは、適用したい控除の内容や金額を証明するための書類で、例えば以下のようなものが該当します。
・医療費の領収書
・ふるさと納税先や寄付先から受け取った受領証
・住宅ローンの年末時点の残高を証明する書類
・副業の収入を証明する書類
・年末調整済みの源泉徴収票
なお、近年はマイナンバーカードを使ってマイナポータル(行政手続きのオンライン窓口)と連携することで、控除証明書などの自動入力などができるようになっています。書類の提出が不要な場合もあるため確認しておきましょう。
上述の書類を揃え、確定申告書を作成して、本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)を添えて提出すれば、確定申告の手続きは完了です。
スマートフォンを使って簡単に確定申告する方法
会社員の場合、スマートフォンを使って簡単に確定申告を済ませる方法もあります。確定申告書の作成も提出も手元のスマートフォンで完結するため、手軽かつ便利です。
必要なものは、マイナンバーカードとマイナンバーカード対応スマートフォン、もしくは税務署で取得できるID・パスワードのいずれかです。
カメラ機能を使えば、撮影した源泉徴収票などの書類を読み取って自動入力することも可能です。確定申告書の作成も、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」 にアクセスして画面の案内に沿って質問に答えていくだけでできるので、忙しい人や確定申告に不慣れな人でも取り組みやすいでしょう。
ただ、副業で事業を行っている場合など、上記のような簡易的な確定申告ができないこともあります。
その場合は自営業者や個人事業主などと同じように、パソコンなどで確定申告書を作成して税務署に持参する、もしくはe-Tax(電子申告・納税システム)で提出するなどの方法で手続きしましょう。
確定申告の期限は3月15日・還付申告の期限は5年
確定申告の時期は、例年2月16日から3月15日とされています。納税が必要な場合は、原則として翌年の3月15日までに確定申告書を提出する必要があります。
しかし、会社員が確定申告する場合、その多くは還付申告(納め過ぎた税金を還付してもらうための確定申告)です。還付申告は、上述の時期に関係なく「翌年1月1日から5年」と期限が定められています。
そのため、数年前のふるさと納税や医療費控除の手続きが漏れていた場合でも、後から確定申告をすれば還付を受けられる可能性があります。気付くのが遅かったり、忙しくて手続きしそびれたりしても、諦める必要はありません。
会社員の場合、原則確定申告は不要
会社員の場合、年末調整のみで完結できるため、確定申告は不要というケースが一般的です。
ただし、確定申告をすれば税金の還付を受けられる場合もありますので、医療費控除やふるさと納税(寄附金控除)など、各種控除の申請が漏れていないか、よく確認してみましょう。
「お金の知識を身に付けたい」
「資産運用に興味がある」
という人は、まずは情報収集から始めてみませんか?
ウェルスナビにアカウント登録していただくと、資産運用に役立つ情報をお届けします。