会社員や公務員などの場合、毎年年末に勤務先で「年末調整」を受けます。しかし、年末調整とは何なのか、実はよく分からないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、年末調整の概要や目的、そして年末調整で受けられる主な控除と適用条件について解説します。併せて、年末調整で控除を受けることで税額がいくら変わるのか、具体的に見ていきましょう。
※本記事は2024年12月時点の制度・情報を基に、個人(居住者)の所得についての税制を説明したものです。
年末調整とは?
会社員や公務員などの場合、納めるべき税金を勤務先が源泉徴収(給与天引き)しています。源泉徴収の税額はあくまで概算なので、実際に納税が必要な金額と差があることがあります。その差をなくすため、年1回、年末に税額の調整を行う手続きが「年末調整」です。
年末調整は、勤務先(給与を支払って源泉徴収している側)が行います。従業員(給与を受け取り源泉徴収されている側)は、その手続きに必要な書類を揃えて期日までに勤務先に提出するのが一般的です。
年末調整と確定申告の違い

確定申告は、1年間の所得や納税額を計算して確定させる手続きです。年末調整同様、税額を調整する目的がありますが、対象者や手続きする人などが異なります。
・年末調整……勤務先が従業員の税額を調整する
・確定申告……納税者本人が自分の税額を申告する
勤務先で年末調整を受けた場合、基本的に確定申告は必要ありません。しかし、以下の通り、確定申告が必要な場合もあります。

年末調整や確定申告では、税負担を軽減するために「控除」を申告します。控除額が大きければ大きいほど、税額が抑えられ、還付される金額が大きくなる仕組みです。
年末調整と確定申告では、申告できる控除の種類が異なります。

確定申告は全ての控除を申告できますが、年末調整で申告できる控除は一部に限られます。年末調整で処理できない控除を利用したい時は確定申告を行いましょう。
確定申告については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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年末調整で受けられる主な控除と適用条件

控除の申告漏れがあると、税金を余分に納めることになります。それを防ぐには、どんな種類の控除があってどんな場合に適用できるのかを把握して、確実に申告することが大切です。
年末調整で申告できる主な控除と、それぞれの適用条件について見ていきましょう。
社会保険料控除
社会保険料控除は、社会保険料(健康保険料、介護保険料、年金保険料、雇用保険料など)を支払った場合に適用できる控除です。
1年間で支払った金額(全額)が所得控除の対象になります。納税者本人の社会保険料はもちろん、配偶者や子どもなど家族の分を支払った場合も対象です。
年末調整で使うため、10月頃に社会保険料控除証明書(支払った社会保険料の金額を証明できる書類)が届いたら大切に保管しておきましょう。
小規模企業共済等掛金控除
「小規模企業共済」というと、なじみがないと感じるかもしれませんが、確定拠出年金の掛け金がこの控除の対象に含まれます。
企業型確定拠出年金もiDeCo(個人型確定拠出年金)も、1年間に支払った掛け金の全額が所得控除の対象になります。
iDeCoの掛金を支払っている場合、10月頃に国民年金基金連合会から届く「小規模企業共済等掛金払込証明書」を保管しておきましょう。
生命保険料控除
生命保険料控除は、民間の保険会社の死亡保険や医療保険、個人年金保険などに加入している場合に利用できる控除です。
生命保険料控除は前述の控除と違い、支払った金額全額が控除の対象になるわけではありません。加入している保険の種類ごとに細かく上限が決められていて、最大12万円までです。
2012年以降に契約締結した保険は「新契約」とされます。新契約は、新生命保険料控除(遺族保障など)、介護医療保険料控除(介護・医療保障)、個人年金保険料控除(老後保障)の3つに分類され、それぞれ最大4万円まで控除対象になります。
2011年以前に契約締結した保険は「旧契約」です。旧契約は旧生命保険料控除(遺族保障、介護・医療保障)と旧年金保険料控除の2種類に分かれ、それぞれ最大5万円まで控除対象になります。
加入中の保険がどれに該当するのか分からない場合は、10月~11月頃に保険会社から届く控除証明書を確認しましょう。
配偶者控除・配偶者特別控除
配偶者控除と配偶者特別控除は、どちらも配偶者を扶養している場合に利用できる控除です。両者の違いは、配偶者(扶養されている人)の所得です。
・配偶者控除
合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)
・配偶者特別控除
合計所得金額48万円超133万円以下(給与収入103万円超~201.6万円未満)
配偶者控除や配偶者特別控除の控除額は、配偶者の所得だけでなく、納税者本人の所得、配偶者の年齢などによって異なります。

上記の通り細かく決められているため、よく確認して、誤りのないよう申告しましょう。
扶養控除
扶養控除は、親族を扶養している場合に利用できる控除です。扶養する親族の年齢や同居の有無などによって、控除額が異なります。

控除対象扶養親族として認められるには、その親族の合計所得金額が48万円以下(収入が給与のみなら年間103万円以下)である必要があります。
基礎控除
基礎控除は、合計所得2,500万円以下であれば利用できる控除です。「基礎」というだけあって、多くの人が対象になります。控除額は以下のように決められています。

年末調整の際、勤務先に基礎控除申告書を提出すると適用されます。
住宅借入金等特別控除
住宅借入金等特別控除(通称:住宅ローン控除)は、初年度は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で対応できます。
住宅ローン控除を受けるには、その年の合計所得金額が2,000万円以下である必要があります。
税務署から届く「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書兼給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」と「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」が必要になるので保管しておきましょう。
なお、ここまでに紹介した他の控除は「所得控除」ですが、住宅ローン控除は「税額控除」です。所得からではなく、税額そのものから直接差し引くため、より税負担を抑える効果が高くなりやすいのが特徴です。
控除が適用されると還付される金額は?
年末調整で控除を適用すると、源泉徴収で払い過ぎになっていた税金が戻ってきます。いくらくらい戻ってくるのか、気になる人もいるでしょう。
ここでは各控除について、所得税率20%の人(課税所得330万円以上695万円未満の人)を例に、還付金の金額を具体的に紹介します。
iDeCo・企業型確定拠出年金の掛け金は全額所得控除の対象
iDeCoや企業型確定拠出年金の掛け金は、その全額が所得控除の対象になります。
しかし、掛け金の金額には上限があり、企業型確定拠出年金では最大で月5.5万円です。iDeCoの場合、下記のようになります。

仮に月2万円ずつiDeCoに拠出した場合、2万円×12ヶ月×20%=4万8,000円が還付される計算です。
生命保険料控除は最大12万円の所得控除
生命保険料控除は、最大12万円まで認められます。控除額は以下のように計算します。


例えば2012年以降に加入した保険(新契約)で、生命保険・医療保険・個人年金保険にそれぞれ年4万円ずつ支払っていた場合、合計12万円が控除対象になり、還付される金額は12万円×20%=2万4,000円になります。
配偶者控除は原則38万円の所得控除
配偶者に関する控除(配偶者控除・配偶者特別控除)は、前述の通り納税者本人や配偶者の所得、年齢などによって控除額が変わります。
例えば納税者本人の合計所得金額が900万円以下で、配偶者が70歳未満かつ合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)の場合は配偶者控除の対象になり、控除額は38万円です。
この場合、還付される金額は38万円×20%=7万6,000円となります。
扶養親族は原則1人当たり38万円の所得控除
扶養控除は原則として1人当たり38万円の控除ですが、扶養する親族の年齢などによって変わってきます。
例えば10歳、15歳、20歳の3人の子と80歳の親(同居)を扶養しているケースでは、控除額は以下のようになります。
10歳の子:扶養控除の対象外(控除額0円)
15歳の子:扶養控除の対象外(控除額0円)
20歳の子:特定扶養親族(控除額63万円)
80際の親:老人扶養親族・同居老親(控除額58万円)
→合計控除額:121万円
この場合、還付される金額は121万円×20%=24万2,000円です。
寄附金控除は最大で寄付した金額-2,000円が所得税・住民税から控除される
ふるさと納税にも適用される「寄附金控除」の控除額は、最大で「寄付した金額-2,000円」です。
ただ、年収や家族構成などに応じて限度額があります。限度額の目安や計算方法は総務省のふるさと納税ポータルサイトで確認できます。例えば給与収入500万円の独身の人の場合、2,000円を除いて全額が控除対象となる寄付額の目安(年間上限)は6万1,000円と記載されています。
寄附金控除は、年末調整では申告できない控除です。利用する場合は確定申告、もしくはふるさと納税のワンストップ特例が必要です。正しく控除できたかは翌年5月~6月に受け取る住民税決定通知書で確認できます。
※具体的な計算は、お住まいの市区町村にお問い合わせください。
詳しくは以下の記事で解説しています。
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住宅ローン控除は住宅ローンの年末残高の0.7~1%が税額控除される
住宅ローン控除の控除額は、年末時点の住宅ローン残高の0.7~1.0%です。
住宅ローン控除は税額控除なので、所得からではなく税額から直接差し引きます。年末のローン残高2,000万円で1.0%の税額控除を受けられる人の場合、満額で20万円が戻ってくる計算です。
ただ、住宅ローン控除は適用条件が細かく決められていて、制度改正も頻繁に行われています。
2024年~2025年に住み始めた場合、認定住宅であれば控除期間は13年、控除率は0.7%ですが、2021年に住み始めた場合は、控除期間は10年、控除率は1%です。このように、住み始めた年などによって控除できる年数や控除率が異なる点に注意してください。
年末調整の結果は源泉徴収票で確認しよう

※画像はイメージです
会社側の年末調整の手続きが終わると、会社から税金の過不足額の清算に関する書類を受け取り、税金の還付もしくは追加徴収が行われるのが一般的です。ただし、還付金(追加徴収金)の明細書の記載項目や書式は企業によって異なり、計算式等が省略されているケースも多いため、明細書を見ただけでは正しく計算されているかどうか分からないことがほとんどです。
特に控除されている金額が少ない(還付が少ない)と感じた場合などには、源泉徴収票を確認するのがおすすめです。源泉徴収票には勤務先が把握している控除の内容や控除額が記載されています。
源泉徴収票の見方については、以下の記事で詳しく解説しています。
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年末調整に関するよくある質問

最後に、年末調整に関するよくある質問に回答します。
年末調整を受けられなかったらどうすれば良い?
退職して年末時点で会社に在籍していない人などは、原則として年末調整を受けられません。年末調整を受けられなかった場合は、確定申告を行いましょう。
年末調整で抜け漏れがあった場合、勤務先の年末調整の期日に間に合わなかった場合なども同様です。
会社員や公務員などの場合、確定申告はスマホのみで実施することも可能です。源泉徴収票など必要な書類を用意し、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」などを利用して確定申告書を作成し、提出しましょう。
年末調整で追加徴収があるケースとは?
年末調整では多くの場合、払い過ぎた税金の還付を受けられます。しかし必ず還付が発生するわけではなく、中には追加で納税(追加徴収)が必要になるケースもあります。
追加徴収になるのは、例えば想定より大幅に収入が多かったケースや、扶養人数が減るなどの理由で控除が少なくなっxたケースなどが考えられます。
追加徴収がある場合、年末調整の結果が反映される月の給与から差し引かれます。思いがけず手取りが少なくなる可能性もあるので注意しましょう。
年末調整をきっかけに、税制や社会保険制度について理解を深めよう
会社員の場合、確定申告をせず年末調整のみでも、多くの控除を受けることができます。それぞれの控除の内容を把握して、正しく申告できるようにしましょう。
年末調整は、税制や社会保険制度について理解を深める良い機会になります。
お金に関する知識を身に付けて理解を深めたいなら、情報収集から始めませんか?
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