NISA口座の金融機関変更を検討する前に|新NISA制度の要点を理解しよう
NISAの金融機関の変更は可能です。ただ、それを検討する前に知っておきたい、NISAの制度上のルールがいくつかあります。要点をかんたんに解説します。
NISA口座は1人につき1口座のみ開設可能
NISAの口座は、1人につき1口座のみと決められています。より正確には、金融機関を変更することによって、複数の金融機関にNISA口座ができる場合もありますが、「1年間で買付ができるのは1つの金融機関のNISA口座のみ」に限られます。
そのため、例えば変更前にA証券で株や投資信託の買付をしていた場合、その年分についてはB証券に金融機関変更をすることはできません。A証券で1月1日以降取引をしていない状態でB証券に金融機関を変更した場合は、その年分からB証券で取引ができます。
なお、2024年以降の新NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2種類がありますが、それぞれ別の金融機関を選択することはできません。両方の枠を1つの金融機関のNISA口座で取引することになります。
金融機関の変更は年単位で可能
金融機関の変更ができるのは、1年に1回だけです。NISAは1月1日から12月31日までの1年間を1つの単位として管理するルールになっているからです。
変更前の口座で買付を行っているかどうかによって、いつ手続きするべきか、いつから変更できるかが異なります。
NISA口座の金融機関をその年分から変更したい場合、前年の10月1日から変更する年の9月30日までに変更の手続きを行う必要があります。ただし、前述の通り、変更前の金融機関でその年に買付を行っていないことが条件です。
「10月~12月に金融機関の変更を申し込んだ場合は翌年扱いになる」と覚えておきましょう。翌年に金融機関の変更を検討している場合、金融機関の変更を予定している口座で、翌年中に一度でも買付を行ってしまうと変更できなくなるため、積立の設定があれば必ず年内に解除しておきます。
旧NISAと新NISAでは制度に違いがある
2024年1月以降、NISA制度が変わっています。2023年までのNISAを「旧NISA」、2024年以降を「新NISA」として、制度の変更点や金融機関の変更時に注意すべき点を整理しておきましょう。
■新NISAのつみたて投資枠と成長投資枠は併用可能
旧NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」の2種類があり、どちらか一方しか選べなかったため、別のNISAを利用したくなった場合は、制度間の変更手続きを検討する必要がありました。
しかし新NISAでは、旧一般NISAである「成長投資枠」と、旧つみたてNISAである「つみたて投資枠」の2つを同時に利用できるようになりました。
■旧NISAから新NISAへのロールオーバーはできない
旧NISA(一般NISA)にはロールオーバーという制度がありました。これは、非課税期間が終了したと同時にその口座の資産を新たな非課税枠に移行する、非課税期間の延長のための手続きです。
しかし、新NISAでは無期限で非課税枠を利用できる制度に変わり、非課税期間の制限がなくなりました。
そのため、ロールオーバーという概念自体がなくなり、そのための手続きもなくなっています。期間の終了を意識してロールオーバーや売却を検討する必要もなくなり、長く続けやすい制度になりました。
ただし、旧NISAから新NISAのロールオーバーはできません。旧NISAで所有していた資産は新NISAに移行できず、新NISAが始まってからも、旧制度で決められた非課税期間が適用されます。
■旧NISA口座の投資信託などは、非課税保有期間が終わったら自動的に課税口座に移管される
旧NISAで投資していた資産は、非課税期間終了までに売却しない場合、自動的に課税口座に移されます。非課税期間は一般NISAだと5年、つみたてNISAだと20年です。
非課税期間中に発生した利益分には課税されないため、焦って売る必要はありません。ただ、課税口座に移った後に発生した利益には、約20%の税金がかかります。
旧NISAの資産は、タイミングを見て売却するか、課税口座で運用を続けるか、対応を検討する必要があります。一旦売却して現金化し、それを元手に新NISAで再度買い付け、非課税で運用できるようにするのも1つの方法です。
NISA口座の金融機関変更手続きの流れ

NISA口座の金融機関を変更する手続きについて、流れを確認しておきましょう。
以下、手続きの順番に沿って解説します。
① 現在NISA口座を保有する金融機関にNISA口座を変更したい旨の連絡を入れる
まずは、現在NISA口座を保有している(変更前の)金融機関に連絡を入れます。
連絡方法は金融機関によって異なりますが、Webや電話で手軽にできる場合が多いです。ただ、一部金融機関では、窓口まで出向いて対面での手続きが必要になる場合もあります。
当年中に変更するためには前年10月~当年9月末までに手続きする必要があります(変更前の口座で当年中に取引していない場合)。手続きが間に合わないと翌年以降の変更になってしまうため、時間に余裕を持って手続きをしましょう。
② 金融商品取引業者等変更届出書に記入し、返送する
①の連絡を入れると、変更前の金融機関から「金融商品取引業者等変更届出書」を受け取れます。その書類に氏名や住所など必要な情報を記入して、返送しましょう。金融機関にもよりますが、記入する量はさほど多くなく、短時間で準備できるのが一般的です。
併せて、本人確認書類の添付も必要です。運転免許証やマイナンバーカードなど金融機関に提出が必要な書類のコピーは事前に用意しておきましょう。変更届出書に記入する現住所と、本人確認書類に記載されている住所は一致している必要があります。
この手続き自体は難しくありませんが、郵送でのやりとりとなるため、金融機関に書類が到着して受理されるまで数日かかることがあります。ただ金融機関によっては、Web上の入力のみで完了し、「勘定廃止通知書」を郵送で受け取れる場合もあります。
③ 変更先の金融機関で新しいNISA口座の開設手続きを始める
変更先となる金融機関でも手続きを進めていきましょう。①②の手続きと同時進行でも問題ありません。
変更先の金融機関を決めたら、総合口座を開設し、NISAを申し込みます。Webで手続きできることが多いです。通常のNISA申込みとは別に「他社からの変更の場合はこちら」などの案内があり、手続き方法が分かれているケースがあるので注意しましょう。
NISAの申込みが完了したら、変更先の金融機関から「非課税口座開設届出書(NISA口座申込書)」が届きます。その書類に記入して、次のステップに進みましょう。
④ 勘定廃止通知書もしくは非課税口座廃止通知書を受け取る
②の書類を変更前の金融機関が受け付けたら、「勘定廃止通知書」もしくは「非課税口座廃止通知書」が送られてきます(Webサイトからダウンロードできる金融機関もあります)。こちらから書類を送付したあと、手元に届くまで2~3週間かかることもあるので気長に待ちましょう。
なお、勘定廃止通知書は、変更前の金融機関のNISA口座に資産が残っている時に発行される書類です。非課税口座廃止通知書は、元々取引がなく残高がゼロだった場合や、その口座で保有していた資産を全て課税口座に移したり売却したりする場合に発行されます。
届いた書類は次のステップで使うため、紛失しないよう大切に保管しましょう。
⑤ ③と④の書類を変更先の金融機関に提出する
③で用意した非課税口座開設届出書に、④の書類を添付して、変更先の金融機関に提出します。
提出後、税務署でNISA口座の重複がないかの審査が行われます。審査は1~2週間かかることがありますが、特に不備などがなければ手続き完了となります。
手続きが完了すると、変更先の金融機関からメールなどで「NISA口座が開設できた」という内容の連絡があります。
NISA口座の金融機関を変更するメリット|変更を検討すべきケースとは?

NISA口座の金融機関を変更すると、どんなメリットがあるのでしょうか。ここでは、NISA口座の金融機関変更によるメリットが大きいと考えられるケースをいくつか例に挙げながら解説します。
現在利用している金融機関に購入したい商品の取り扱いがない場合
金融機関ごとに、取り扱っている商品のラインナップが異なります。そのため、NISAに対応している金融機関の中でも「A証券では買えるのに、B銀行では買えない」といったことがあります。
変更先にしかない商品を買いたい(現在の金融機関に似た商品がない)場合などは、金融機関の変更を検討する余地があるでしょう。
現在利用している金融機関の手数料に不満がある場合
手数料も金融機関ごとに差があるポイントです。今利用している金融機関で、NISAの手数料に不満があるなら、金融機関変更を検討する価値があるでしょう。
一般的には、各地に店舗がある銀行や証券会社よりも、ネット証券の方が割安な手数料を打ち出していることが多いです。
現在利用しているNISA口座の使い勝手が悪い場合
今利用している金融機関の使い勝手が悪いと感じる時も、金融機関の変更を検討すると良いでしょう。
例えば、手続きがWebのみで完結しない、アプリの使い勝手が悪い、サポートが不十分といった場合は、金融機関を変更することで快適に利用できるようになる可能性があります。
大きな不満があるなら、他社ではそのようなことがないのか、サービス内容や口コミなどを調べてみるのがおすすめです。
変更先の金融機関にお得なサービスや特典がある場合
金融機関によっては、利用することでその金融機関独自のポイントが貯まるなど、お得なサービスや特典がある場合があります。長期的に利用できるサービスや特典を活用するために金融機関を変更するのも1つの方法です。
ただし、まれに「独自サービスが終了した」など、それを目当てにNISA口座の金融機関を変更したのに、メリットを享受できない状態になることもあります。
NISAにおける金融機関の変更手続きは年1回までしかできず、手続きには時間も手間もかかります。お得そうな特典にすぐに飛びつくのではなく、どんな資産運用がしたいかをよく考え、その目的に合った金融機関を選ぶようにしましょう。
NISA口座の金融機関を変更する注意点

NISA口座の金融機関を変更することには、メリットだけでなく注意点もあります。特に注意しておきたい点について解説します。
変更前の金融機関で買った商品は移管することができない
NISA口座は、金融機関を変更したからといって、変更先の口座に今まで投資した資産が移管されるわけではありません。
変更前のNISA口座で投資した分は、金融機関の変更手続きを行った後も変更前の金融機関の口座に残るため、旧口座と新口座に資産が分かれることになります。
新口座のみで運用したいなら、旧口座にある資産を売却して現金化し、新口座で再度買い直すという方法もあります。ただ、タイミングによっては損失が出る可能性もあり、長期運用の効果が薄れてしまうことも懸念されます。
いずれにせよ、金融機関の変更に伴って、多少の煩わしさや手間が発生する点は理解しておきましょう。
変更前のNISA口座で新たな買付ができなくなる
NISA口座が変更前・変更後の2つになっても、買付に使えるのは1つだけです。金融機関を変更した後は、変更前のNISA口座では新たな買付ができなくなります。
新たな買付はできませんが、変更前の口座で投資していた分を変更後に売却することは可能です。また、10月1日以降に翌年の金融機関変更の手続きをする場合は、年末まで変更前の金融機関で積立や買付ができます。
なお、NISA口座の金融機関の変更手続きには1ヶ月ほど時間がかかることがあります。また、年内の金融機関変更を希望する場合、手続きが完了するまでの間、買付ができないため注意してください。
管理が複雑になる可能性が考えられる
複数のNISA口座で商品を保有している状態になると、どちらでいくら何に投資しているのか、直近の運用状況はどうか、どの口座で新たな買付ができるかどうかなどすべての口座の状態を把握するのが難しくなり、管理が大変になる可能性があります。
全ての口座の内容を把握しきれず売却のタイミングを逃したり、万が一の際に家族がNISA口座が複数あることに気付けなかったりすることも考えられます。
NISA口座の金融機関変更に関するよくある質問

最後に、NISA口座の金融機関変更に関するよくある質問に回答します。
現在保有中の商品は全て金融機関を変更する前に売却しないといけませんか?
金融機関の変更に際して、変更前のNISA口座で保有している株式や投資信託を無理に売却する必要はありません。
変更後も、そのまま変更前の口座で非課税の運用を続けられるからです。いつでも自由に売却できるので、金融機関の変更に関係なく、長期投資をするのがおすすめです。
なお、NISAのルール上、1年間で買付ができるNISA口座は1つのみです。変更前の口座では売却は引き続き可能ですが、新たな買付はできなくなります。
旧NISA口座で運用を続けている状態で新NISA口座を開設することはできますか?
旧NISA口座を保有している場合、特に手続きをしていなければ、自動的に同じ金融機関で新NISA口座が開設されているはずです。
新NISAと旧NISAは別の制度としてカウントされるため、併用可能です。1人で両方の非課税投資枠を利用できますが、2024年以降は旧NISA口座で買付ができなくなっているため注意が必要です
新NISAでは一生涯に投資できる金額の上限(生涯投資枠)が1,800万円と決まっていますが、2023年までの旧NISAで取引した分は、この生涯投資枠に含まれません。
例えば2023年に旧NISAで100万円分の株式を買って保有している状態でも、新NISAで1,800万円まで投資できます。その場合、旧NISA口座の株式は、非課税期間が終わる2028年まで非課税のまま旧NISA口座で保有できます。非課税期間が終了した後は、課税口座に移管されます。
NISA口座の金融機関を変更するのに適した時期はありますか?
NISAではルール上、1月1日から12月31日までの1年間を1つの単位としています。1年の最初から新しい金融機関の口座で買付を始めるためには、年内に手続きが完了するよう10~11月頃から手続きするのがおすすめです。
金融機関の変更手続きや審査には1ヶ月ほど時間がかかるケースもあるため、早めに行動するのがおすすめです。
なお、変更前のNISA口座で1月1日以降に買付をしていない場合は、年末を待つ必要はありません。9月末までに手続きを済ませれば、翌年まで待たずその年のうちに金融機関を変更できます。
自分に合った金融機関でNISAを始めよう
NISA口座の金融機関の変更は、手続きに多少の手間と時間がかかります。しかし、そのデメリットを上回るメリットを得られることも多く、検討する価値は十分あるでしょう。
変更先には、自分の投資方針にあった金融機関を選ぶのがおすすめです。
自分に合った金融機関で、自分に合った運用を行って、将来に向けた資産づくりを無理なく進めていきましょう。
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