私たちは人生の中で、さまざまなリスクに直面します。リスクに備える手段はいくつかあり、保険もその一つです。備えが不足したり、反対に保険に入りすぎたりすることのないよう、まずは自分にどのようなリスクがあるかを把握しましょう。
リスクを把握できたら、どのように備えるかを考えます。「備える」と聞くと、生命保険などを思いつきますが、民間の保険に入っていなくても保障がゼロというわけではありません。実は、多くのリスクには「貯蓄と公的保険」で備えることができます。
では、大病やケガ、失業といった大きなリスクも、公的保険でカバーすることができるのでしょうか。事例を見ながら考えてみましょう。
目次
- 自分のリスクを把握しよう
- リスクはライフステージによって変わる
- 多くのリスクは「貯蓄と公的保険」で備えられる
- 家計の負担を減らすために「保険が本当に必要か」を考えよう
自分のリスクを把握しよう

もし将来に対して漠然とした不安を感じているとすれば、自分にどんなリスクが存在するのか、それが起こった時にどうなってしまうのかよくわかっていないからかもしれません。まずはこれまで気に留めていなかった自分のリスクを洗い出すことから始めましょう。
人生のさまざまなリスクの例

リスクはライフステージによって変わる

置かれている環境などによって、リスクは一人ひとり異なります。たとえば、同じ「死亡」でも、年齢や家族構成、ライフステージが違えば、リスクの大きさも同じではありません。
特に家計を支えている人が子育て期に死亡した場合のリスクは大きいと言えます。
たとえば4人家族で夫婦ともに30代、2人の未就学児がいるケースを考えてみましょう。夫が働いて家計を支えており、妻は専業主婦で無収入、貯金は約200万円で金銭的に頼れる親族はいないとします。
30代の夫が子育て期間中に死亡する確率は、一般的に高くありません。しかし、夫一人で家計を支えているため、万が一死亡した場合の経済的ダメージは多大です。
貯金が200万円では、残された妻が働かなければ、1〜2年程度で貯金が底をつくことが容易に想像できます。すぐに仕事に就けたとしても、未就学児2人を育てながら働いて、家族3人分の生活費や子育て費用をまかなうのは簡単ではありません。公的年金(遺族年金)を受け取れるとしても、今と同じ生活水準を維持するのは難しいでしょう。
さらに子供たちは数年後に学齢期にさしかかり、学費の負担がどんどん大きくなります。子供たちが社会人になるまでは、かなりの資金不足が予想されます。
こうした大きなリスクに対しては、民間の死亡保険で備えておくことが望ましいでしょう。
一方、子育てが終わり年金生活が始まったステージにおいては、死亡した場合のリスクは相対的に小さくなります。
子育てが終わった60代の夫婦のケースで考えてみましょう。夫婦ともにリタイアしており、年金生活が始まったばかりで、貯金は退職金を含めて2000万円程度あるとします。
先ほどの30代のケースに比べると、60代の死亡するリスクは一般的に高まっています。しかし子育ては終わっており、貯金も十分にあります。夫婦どちらかが亡くなっても、残された家族の経済的なダメージはさほど大きいものではないでしょう。
同じ「死亡」であっても、このケースでは民間の死亡保険への加入が最適解とはかぎりません。保険に入っていなくても、それまでに蓄えた貯蓄と年金で対処することができるからです。
上記はあくまで一例ですが、民間保険でよく備えることの多い「死亡」というリスク一つとっても、家族構成やライフステージによって、リスクの大きさが大きさが異なるのです。
多くのリスクは「貯蓄と公的保険」で備えられる

実は、貯蓄と公的保険で多くのリスクをカバーすることができるため、民間の保険に入っていなくても何も保障がない状態ではありません。大病やケガ、それに伴う失業といった大きなリスクに対しても、公的保険で対応できることが多いのです。

- 公的保険とは
国が運営するもので、加入は強制です。たとえば病気やケガで病院にかかるとき、公的医療保険によって医療費の一部が軽減されます。
- 民間保険とは
民間の保険会社が運営するもので、加入は任意です。民間保険は公的保険を補完する役割を担います。
たとえば大きな病気にかかり、多額の医療費がかかった場合には、「高額療養費制度」を使うことができます。
高額療養費制度とは、同月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額を超えた分が、あとで払い戻される制度のことです。
月に100万円の医療費がかかった場合、高額療養費制度を使えば、自己負担額は年収500万円の人で約8.7万円、年収300万円の人で約5.7万円に抑えられます。この自己負担額と制度の対象外の費用(差額ベッド代など)は家計の負担にはなりますが、ある程度貯蓄があるならやりくりできる金額ではないでしょうか。
リスクに備えるために、「まず保険を検討する」のではなく、「貯蓄と公的保険を使ってもなお不足しそうな場合に、民間の保険を活用する」という順番で考えることが大切です。
高額療養費制度の例

病気やケガなどで働けなくなったときには「傷病手当金」の制度を確認するとよいでしょう。これは業務外の病気やケガにより会社を休まなくてはならない場合、条件を満たせば「最大1年半、月収の3分の2程度」が支給されるものです。万一働けないような状態になったとしても本人や家族の生活を守ってくれます。

将来の大病や失業を恐れて民間保険に入る前に、まずは高額療養費制度や傷病手当金といった制度があると知っておくことが大切です。
「死亡」についても同じ考え方ができます。十分な貯蓄があるなら、残された家族は生活水準を落とさずに暮らしていくことができるでしょう。また住宅ローンを抱えていたとしても、団体信用生命保険(団信)に加入していれば、死亡により住居費が生活を圧迫することはないと言えます。リスクに対してどの程度の備えが必要かは一人ひとり、またそれぞれの家庭ごとに異なると認識しておくことが大切です。
家計の負担を減らすために「保険が本当に必要か」を考えよう
ここまで見てきたように、保険はリスクに備える手段の一つに過ぎません。民間保険に入れば毎月の支出が続くため、家計を圧迫する可能性が生じます。まずは貯蓄と公的保険で賄えるかどうかを考えたうえで、民間保険が必要かどうかを考えましょう。
では具体的にどのようなリスクに対して民間保険で備えるのが良いのでしょうか。次の記事で、さまざまなケースと共に解説します。