人生にはさまざまなリスクがありますが、貯蓄と公的保険で賄えるかどうかを考えたうえで、民間保険が必要かどうかという順番で考えると、保険料の負担を必要最小限に抑えることができます。
では、具体的にどのようなリスクに対して民間保険を検討する必要があるのでしょうか。リスクの中には、民間保険で備えるのに適しているリスクと適していないリスクがあります。
こうしたリスクの性質を知るために役立つのが「リスクマップ」です。リスクマップとは、リスクを「確率」と「負担」の軸で4つに分類したものです。
リスクマップのイメージ

リスクを4つに分類したところで、それぞれのリスクにどう対応すべきかを考えてみましょう。
目次
- 「低確率・負担小」のリスクは気にしすぎない
- 「高確率・負担小」のリスクは予防する
- 「低確率・負担大」のリスクには、民間の保険で備える
- 「高確率・負担大」のリスクは回避する
- 保険の入りすぎは家計を圧迫につながる
「低確率・負担小」のリスクは気にしすぎない

発生確率が低く、発生したところで経済的な負担が小さいリスクは、気にしすぎなくてよいと言えます。例を挙げてみます。
(例)不注意により家の鍵を紛失する
(例)東京で暮らしており、数年に一度の台風で家屋が小さな被害を受ける
こうしたことがあったとしても、経済的なダメージは数万円程度でしょう。起こる頻度も低いため、相応の貯蓄があれば乗り切ることができます。
「低確率・負担小」のリスクのイメージ

「高確率・負担小」のリスクは予防する

経済的な負担は小さいものの発生確率が高いリスクは、予防するように努めるのがよいでしょう。発生する確率が高い分、リスクを軽減する行動に時間とお金を使うのが合理的です。
(例)健康診断で生活習慣病になり得るリスクを指摘されている
生活習慣病になると、身体への影響が大きいだけでなく、医療費が家計を圧迫します。運動と健康的な食事を意識するなど、病気を予防するための行動を取れば、リスクは軽減できます。
(例)毎年のように大型台風が上陸する地域の賃貸物件に住む
家を借りる際に、1階以外の部屋を選ぶ、事前にハザードマップを確認し、浸水や土砂崩れなどが起こる危険性の高い場所は避けるといった行動が、被害の予防につながります。
「高確率・負担小」のリスクのイメージ

「低確率・負担大」のリスクには、民間の保険で備える

では発生する確率は低いものの、いざ起こってしまうと経済的な負担が甚大になるリスクはどうでしょうか。めったに起こらないことのためにまとまったお金を準備しておくのは現実的ではありません。
このような場合に役立つのが保険です。保険はあらかじめお金を出しあって、もしものことが起こったときに第三者に助けてもらうという仕組みです。
保険に加入する最大のメリットは、自分で大きな金額を蓄えていなくても、困ったときにまとまったお金を用意できる点です。例えば、毎月の保険料が3,000円、死亡保険金2,000万円の死亡保険に入っていた人が、保険に入った3年後に亡くなったとしましょう。この場合、支払った保険料の総額は約10万円ですが、遺族は原則2,000万円ものお金を受け取ることができます。
保険に入るのが有効な事例を見てみましょう。
例)家計を担う人が「子育て期」に死亡する
生活費や子育て費用が膨らむ子育て期に、家計を担う人が死亡すると、残された家族の生活が困窮するおそれがあります。死亡保険に入っておけば、万一のときでも経済的な負担を抑えられます。
例)自宅で火災が起こる
建物の再建、焼失した家財の買い直しといった対応に迫られます。経済的な負担が甚大なので、民間の「火災保険」に入って損失のリスクを回避するのが合理的です。
例)自動車事故で他人を死傷させる
多くの場合、多額の賠償金を支払わなければなりません。たとえ数億円の賠償金を支払うことになっても困窮しなくて済むよう、民間の「対人賠償保険」で備えておくのが有効です。
「民間の保険にはコストがかかるため、極力利用しない方がいい」という考え方もあります。しかし、めったに発生しない深刻な出来事によって甚大な経済的な負担が生じる可能性が考えられる場合は、少額のコストを支払って保険に加入しておく価値があるでしょう。
「低確率・負担大」のリスクのイメージ

「高確率・負担大」のリスクは回避する

最後に、発生する確率が高く、経済的な負担も大きいリスクを考えます。こうしたリスクからは直ちに逃げるかそもそも近づかないようにしましょう。
例)紛争や災害などで入国が警告されている
情勢が不安定な国にはそもそも入国しないことがリスク回避につながります。
保険とは多くの人がお金を少しずつ出し合って、運悪くトラブルに合った少数の人にお金を渡す仕組みです。高確率で発生する負担の大きなリスクについては保険商品は成立しません。
「高確率・負担大」のリスクのイメージ

保険で備えるべきは「低確率・負担大」のリスクだけ

これまで見てきたうち、保険を活用すべきなのは「低確率・負担大」のリスクでした。ただし、どのようなリスクが「低確率・負担大」かは一人ひとり異なります。
このため保険を活用すべきかどうかは、自分で判断する必要があります。①起きる確率がきわめて低い、②いつ起こるか予測がつかない、③起こってしまったら経済的な負担が甚大である、という3つの条件がそろったら、民間保険の活用を考えるのが良いでしょう。
たとえば病気やケガは「②いつ起こるか予測ができない」ですが、貯蓄と公的保険でまかなえることが大半で、「③起こってしまったら経済的な負担が甚大」にはあてはまらないケースも多くあります。
また、老後と介護は多くの人に訪れる出来事なので、「②いつ起こるか予測がつかない」わけではありません。老後や介護への備えは、民間保険というよりも、資産運用などで計画的に資金を蓄えておくのが良いでしょう。
一方で、先ほど例に挙げた火災や交通事故、子育て期に家計を担う人の死亡は、①②③の3つの条件すべてにあてはまるため、民間保険で備えておくべきと言えます。もし「低確率・負担大」のリスクを放置していることに気づいたら、保険に加入するなどの対策を考えましょう。
保険の入りすぎは家計の圧迫につながる

いざ保険に入ろうとすると、さまざまなプランがあって迷うことがあります。特に難しいのが生命保険です。
火災や事故に対処する損害保険はその確率や損失額をある程度イメージすることができます。補償内容が同じ損害保険であれば、保険会社ごとの保険料の差も限定的です。
一方で、生命保険には、掛け捨てタイプのものや貯蓄タイプのものがあり、明確な相場がありません。死亡保険金が1,000万円の生命保険でも月々の保険料が1,000円のものもあれば、5,000円のものもあります。
また、自分が亡くなった場合、残された家族が今と同程度の暮らしを続けるためにいくら必要なのかを判断することは難しいものです。
死亡の場合、家族に残さなければならないお金と、残したいお金を混同してしまうケースがあります。できるだけ家族に大きく残してあげたいと考えるのは自然なことですが、過剰なプランを選んでしまうと家計を圧迫しかねません。次回は適切な保障額の考え方、保険の選び方を紹介します。