「投資は、余裕資金で行う必要がある」といわれています。そもそも、余裕資金とは何なのか、最初に考えてみましょう。
余裕資金とは、貯蓄から、生活予備資金を差し引いて計算し、しばらく使う予定がなく、万が一無くなってしまったとしても生活に支障を来たさないお金のことです。
また、生活予備資金とは、結婚や子どもの入学など、近い将来に控えている大きなライフイベントや、急に働けなくなったときなどの予想外の出費に備えるお金で生活費の3~6カ月分ぐらいが目安となります。
余裕資金 = 貯蓄 – 生活予備資金
病気やケガで一時的に働けなくなったり、家の修繕費が必要になったりするなど、人生には思いがけないトラブルがつきものです。急にまとまった出費が必要になった場合でも、生活予備資金と公的保険で備えられていれば、ある程度は対応できます。
ただし、扶養している家族を残して突然死亡してしまうなど、生活予備資金と公的保険では到底対応できないリスクもあります。このようなリスクには、自分で保険に入って備えておくことが望ましいでしょう。
目次
- 家計を見直し、余裕資金をできるだけ増やす
- 投資で失敗しないために、リスクとリターンの相場を知る
- 投資の基本は、税制優遇を活用すること
- 少額の投資でも経験を積むことが大事
家計を見直し、余裕資金をできるだけ増やす

生活予備資金の貯蓄と、万が一のリスクに対する備えができたら、次のステップである「投資」に進みましょう。
投資は、長く時間をかけるほど、成果を得られる可能性が高まります。また、投資にまわす金額が大きければ、利益を上げた場合に得られる金額もそのぶん大きくなります。得られる利益率が1%だとして、投資額が1万円であれば100円のプラスに過ぎませんが、投資額が100万円あれば1万円のプラスになります。
そのため、投資にまわせる余裕資金をできるかぎり増やした方が、長期的により多くのお金を生み出せる可能性が高まるのです。
余裕資金を増やす方法は収入を増やすか、支出を減らすかのどちらかです。このうち、収入を増やすことはすぐには難しいかもしれません。まずは家計を見直して、支出を減らすことを考えてみることをおすすめします。
支出を見直す際にはまず、固定費を見直すとよいでしょう。固定費は一度見直すと効果がずっと続くからです。
よりリスクを抑えて投資に取り組むためには、収支のバランスを見直して、投資にまわせる余裕資金を最大化することが重要です。ただし、家計を最適化してから投資を始めようとすると、いつまでも最適化できず、投資を始められないということになりかねません。
投資の大きな目的は効率良くお金を増やすことですが、実践しながら学びを得ることができるというメリットもあります。例えば、毎月貯蓄している3万円のうちの1万円を投資にまわすなど、無理のない範囲で貯蓄の一部を使って投資を始めて、学びながら徐々に投資にまわす金額を増やしていくのも良いでしょう。

投資は、10年後・20年後に使うお金を増やす意識で取り組むことをおすすめします。目先の生活で使うお金は、生活予備資金として貯蓄で確保しておくのが基本です。投資は、老後資金、住宅購入資金、教育資金など、少し先の未来に使うお金を確保する目的で、取り組みましょう。
そのうえで大切な考え方は、「投資は大きな失敗をしなければよい」というぐらいの気持ちの余裕を持つことです。日々の値動きに一喜一憂して頻繁に売り買いを繰り返したり、短期間で大きな利益を狙ったりしてはいけません。
世の中には、投資詐欺と言われる事例も多く存在します。低いリスクで高いリターンを得られると謳っているものは詐欺の可能性が高く、注意が必要です。
一般的に、投資で得られる利益は、年率3‐7%ぐらいが目安だと考えておくとよいと思います。これは一定程度のリスクを取った場合の目安であり、投資対象や時期によっても変動しますが、安定して10%以上の利回りを得られるような商品はないと思ったほうがよいでしょう。
投資で利益を得るためには、必ずリスクを取る必要があります。リスクとリターンは、コインの表裏のような関係です。低いリスクで高いリターンを得られることは理論上あり得ません。
リスク・リターンのイメージ

リスクとリターンの関係を大原則として押さえておけば、投資詐欺にあったり、リターンだけに目が向いて高いリスクを取りすぎてしまったりすることを避けられます。
投資の場合、一部の人だけが知っている特別な儲け話はないと思ったほうが良いですし、何より特別な情報は必要ないと言えます。何に、どのように投資するかは、書店で手に入る一般的な書籍や、インターネットで調べられるオープンな情報をもとに決めれば問題ありません。
投資の基本は、税制優遇を活用すること

次に、投資を始めるうえで、利用できる制度を理解し、積極的に活用することが大切です。
代表的な制度として、NISAと確定拠出年金制度(企業型DCまたはiDeCo)があります。
NISAは、投資によって得た利益に対して、税金がかからなくなる制度です。通常の投資の場合、投資で利益を得ると、利益に対して約20%の税金がかかります。
NISAで投資した場合には、通常はかかる税金が、かからなくなるのです。たとえば100万円を投資して20万円の利益が出た場合、通常の投資だと税金として約4万円(20万円の約20%)が引かれますが、NISAの投資であれば1円も引かれません。
2014年に始まったNISAは、当初は使える期間に制限がある制度でした。しかし、2024年から新しい制度に生まれ変わり、運用できる期間の制限がなくなりました。年間で最大360万円、生涯で最大1,800万円まで、自由なペースで、非課税で投資できるのです。
老後に向けた投資を行うには、確定拠出年金(DC)も活用できます。DCは、掛金を投資する対象を自分で選び、老後に向けて資産を増やすことを目指す仕組みです。全員が加入する公的年金とは別で、任意で加入できる制度です。
勤めている企業が確定拠出年金制度を導入している場合には、企業が掛金を積み立ててくれる企業型DCを利用することができます。
勤めている企業に年金制度がない人や、自営業の人なども使える個人型DC(iDeCo)という制度もあります。
確定拠出年金にも、運用期間中は運用益に税金がかからないというメリットがあるのはNISAと同じです。さらに、掛金全額を所得から控除することが認められているため、所得税・住民税を安くする効果も期待できます。これはNISAにはないメリットで、掛け金が同額の場合は、所得が高い人ほど効果が高くなります。
一方で、確定拠出年金には、NISAと比べたときのデメリットもあります。特に注意すべきは、原則として、60歳よりも前にお金を引き出すことができないという点です。このデメリットをよく理解し、確定拠出年金で運用するのは60歳まで使わないお金のみに限定するようにしてください。

NISAと確定拠出年金(DC・iDeCo)の2つの制度の違いを理解したうえで、投資できる資金や投資の目的と合っている制度を活用しましょう。具体的な活用方法については、今後の記事でアドバイスします。
少額の投資でも経験を積むことが大事

投資は、まず始めてみて、実践しながら経験を積み、知識を身につけていくことが大切です。利回りが高すぎる上手い儲け話には気をつける、信用取引などはしない、余裕資金の中で投資するなどの大失敗を避けるためのルールを守っていれば、投資はそれほど怖いものではありません。
投資が初めてであれば、自分の資産の値段が動くことそのものに、違和感を持つでしょう。まずは、資産の価格がプラスマイナスゼロからスタートして、日々プラスとマイナスを行ったり来たりすることに慣れる必要があります。
投資額が1万円であれば、たとえ購入した投資信託の価値が10%下がってしまったとしても、損失は1,000円のみです。しかし、一度に100万円投資すると、同じ10%でも10万円の損失となり、焦りや不安から間違った判断をしてしまうリスクが高まります。
このように、最初からまとまった大きな金額を投資して、マイナスになることで心理的にダメージを受けるよりも、無理のない金額で始めて、徐々に投資の感覚に慣れていったほうが良いのではないでしょうか。
スポーツなどと同じで、知識や技術をしっかり身につけてから取り組もうと思っても、多くの人にとっては難しいと言えます。大きな失敗を避ける最低限の知識だけを持って、あとは実践しながら少しずつ慣れていきましょう。
次の記事では、NISAやiDeCoを上手に活用して、資産を増やしていくための方法について解説します。