勤務先によっては、公的年金である厚生年金以外に独自の企業年金制度を設けている所もあります。
企業が用意している企業年金は、従来からある確定給付企業年金(DB)と最近主流になっている企業型確定拠出年金(企業型DC)に分けられます。企業型確定拠出年金(企業型DC)は、従業員が自分で運用しながら年金資産をつくっていく仕組みになっているため、概要や運用方法などについてしっかりと理解しておく必要があります。
今回は主に企業型DCの仕組みや他の年金制度との違い、また設けられている税制優遇の内容について解説します。
目次
- 安心して老後を迎えるために!会社員が加入できる年金
- 企業が掛金を拠出してくれる『企業型確定拠出年金(企業型DC)』ってどんな制度?
- 積立時、運用時、受取時に受けられる企業型DCの税制優遇
- 企業型DCの投資商品にはどんなものがある
- 企業型DCで運用した資産は60歳から受け取れる
- 企業型DCは転職・退職したらどうなるの?
- 企業型DCは税金面のメリットが多い資産運用
安心して老後を迎えるために!会社員が加入できる年金
会社員が加入できる年金制度は、大きく分けて老後の生活を支える基盤となる公的年金(国民年金および厚生年金保険)と、公的年金に上乗せして加入できる私的年金があります。
私的年金には、確定給付企業年金制度(DB)や企業型確定拠出年金制度(DC)の他、厚生年金基金制度などがあります。また、個人が加入している民間の個人年金保険も私的年金の一つです。ただし、厚生年金基金制度については、2014年以降の新規設立は認められていません。
会社員が加入できる私的年金には、企業が従業員のために実施している企業型確定拠出年金(企業型DC)と確定給付企業年金(DB)、そして、従業員個人が自分で加入できる個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。
上記のうち、企業型DCとiDeCoは、加入した従業員個人が自分で運用商品を選んで運用し、その実績によって最終的な給付額が決まる仕組みになっています。
企業年金の仕組み(企業が従業員のために実施するもの)

1.企業型確定拠出年金(DC)
・従業員本人が運用し、その実績によって最終的な給付額が確定するもの
2.確定給付企業年金(DB)
・企業(金融機関)が運用し、従業員の将来の給付を保証するもの
企業が掛金を拠出してくれる『企業型確定拠出年金(企業型DC)』ってどんな制度?

企業型DCは原則として企業が掛金を拠出し、加入者が自ら年金資産の運用をする制度です。
マッチング拠出制度により従業員が拠出した掛金は所得控除の対象となり、運用益は非課税です。また、受け取りの際には、受け取る方法によって退職所得控除や公的年金等控除の適用が受けられます。
ここでは、企業型DCの仕組みについて詳しく解説します。
企業型DCを実施している企業に勤務している従業員は原則全員加入
企業型DCに加入できる人とは、企業型DCを導入している企業に勤務している人です。勤務先の企業に企業型DCが用意されていなければ、加入することはできません。
企業が企業型DCを導入する際には規約を作成していますので、自分が勤務している企業に企業型DCの制度が用意されているなら、どのような内容なのかを確認してみましょう。
企業型DCでは、厚生年金保険の被保険者で、原則70歳未満であることが加入するための要件とされています。ただ、企業の規約によって要件は異なりますので、加入要件については規約をしっかりと確認するようにして下さい。
企業型DCは、その企業に勤務する従業員は原則として全員加入することとなっていますが、規約により、一定の年齢制限が設けられているケースもあります。
自分で掛金の上乗せもできる
企業型DCでは、規約によってはマッチング拠出制度が導入されているケースがあります。
マッチング拠出制度とは、企業が毎月掛けてくれる掛金に加え、自分で掛金を上乗せして積み立てられる制度で、より将来受け取る給付額を増やすことができます。
ただし、掛金の上限は企業型DCの限度額と決まっており、さらに従業員が拠出する掛金が企業の掛金以下でなければなりません。
ちなみに掛金の上限額は、企業型DCのみを利用している場合は5万5,000円、他の企業年金制度と併用している場合は2万7,500円です。
マッチング拠出制度を利用した場合、従業員が拠出した掛金は全額所得控除の対象になります。
積立時、運用時、受取時に受けられる企業型DCの税制優遇
企業型DCでは、以下の通り「積み立てる時」「運用する時」「受け取る時」の3つの場面で、税制優遇が受けられます。
実際にどのような優遇が受けられるのかについて、以下で詳しく解説します。
毎月の積立で所得税が減る
企業が積み立ててくれる掛金は本来給与で受け取るものです。しかし、企業型DCとして積み立てることで非課税扱いになります。また、マッチング拠出制度を利用して積み立てた場合、積み立てた部分については、全額所得控除の対象になります。
所得税を求める際には、まず給与所得金額を確定し、そこから基礎控除などの所得控除を差し引いて最終的な課税所得金額を求め、その金額に応じた税率を乗じる方法をとります。そのため、所得控除の合計額が多いほど課税所得金額を少なくでき、最終的な所得税額を抑えられます。
仮に、所得金額600万円で最終的な所得税率が20%だとしましょう。そして、毎月2万円(年間24万円)をマッチング拠出制度を利用して積み立てた場合、どのくらいの節税効果があるのでしょうか。
マッチング拠出なし | マッチング拠出あり | |
---|---|---|
年間掛金 | 0円 | 24万円 |
課税所得金額 | 600万円 | 576万円 |
所得税額 | 120万円 | 115万2,000円 |
差額 | 4万8,000円 |
マッチング拠出制度を利用することで最終的に4万8,000円の節税効果が得られたことが分かります。
運用で得た利益に税金がかからない
通常、株式や債券、投資信託などの運用商品によって得た利益については、利益に対して20.315%が課税されます。これは預金の利息についても同様です。
しかし、企業型DCで運用している場合は、いくら運用益が出たとしてもその利益については課税されず非課税で再投資が可能です。
仮に、企業型DCで運用しており、20万円の利益が出た場合、通常であれば4万630円が課税されますが、企業型DCでは0円です。さらに、20万円の利益をそのまま再投資できるため、複利効果で資産が増えるスピードが早くなります。
受け取る時も税金の控除がある
企業型DCは原則として60歳以降に受け取りが可能になります。そして、受け取る時にも受け取り方法に応じた税制優遇が受けられます。
具体的には、一時金として受け取る場合には退職所得控除が適用され、年金として分割で受け取る場合には公的年金等控除が適用されます。
また、原則として60歳から受け取りが可能ですが、60歳になったら必ず受け取りを開始しなければならないわけではありません。受け取る時の市場の状況によっては大きく運用実績が下がることも考えられます。そのような時は、無理に60歳で受け取りを開始するのではなく、そのまま運用を続け、自分が納得する実績まで回復した時点で受け取りを開始すればいいことになっています。
60歳以降は掛金を拠出することはできませんが、運用することはできます。ただし、毎月手数料がかかる点に注意が必要です。焦らずに自分の最適な受取時期を選ぶようにしましょう。
企業型DCの投資商品にはどんなものがある?

企業型DCでは、自分で運用する金融商品を選ばなければなりません。複数の運用商品が用意されていますが、それぞれの商品ごとにリスクやリターンが異なるため、 自分の考えにあったものを選ぶ必要があります。
企業型DCで運用できる金融商品は、元本確保型商品と価格変動型商品に分けられます。金融商品を選ぶ際には、複数の商品を選んで組み合わせながら運用することも可能です。
資産運用の原則に、「長期」「積立」「分散」があり、企業型DCでは長期および積立が自動で行えるため、投資先は「分散」を意識して運用することをおすすめします。
例えば元本確保型商品と価格変動型商品を組み合わせることで、価格変動型商品の持つ価格変動リスクを抑えることができます。
元本割れのリスクがない元本確保型
元本確保型商品とは、預貯金や保険商品などに代表される元本が確保されている金融商品のことです。元本が確保されている以上、元本割れするリスクはありません。
ただ、最近の預貯金の金利をみても分かるように、元本確保型商品では大きな利益を生むことはできません。
当初は運用に対する不安が大きく、元本確保型商品を選ぶ人が多くみられたものの、元本確保型商品を選ぶ人の割合は年々減少傾向にあります。確定拠出年金統計資料によると、2023年3月末時点で元本確保型のみで運用している人の割合は26.9%と、2020年3月末時点の34.1%から7.2ポイント低下しました。
また、2023年3月末時点の運用資産額のうち、預貯金の割合は28.3%、保険の割合は11.4%、そして価格変動型商品である投資信託および金銭信託の割合は59.8%になっています。
運用実績によって元本が変動する価格変動型
企業型DCの価格変動型商品は投資信託で構成されています。投資信託とは、投資家から小口で集めた資金を大きな資金にまとめ、運用会社にいるファンドマネージャーと言われる運用のプロに運用を任せ、そこで得られた利益を投資家に還元する仕組みです。
投資信託の投資先は商品によって異なり、国内や海外の他、株式や債券などさまざまな投資先に投資を行っています。そして、投資信託は運用商品である以上、市場の状況によって価格が日々変動します。場合によっては元本を下回ってしまうリスクもある点に注意しなければなりません。
しかし、商品によっては大きな利益を得られる可能性もあり、最終的に受け取れる給付金を増やすことも目指せます。
企業型DCで運用した資産は60歳から受け取れる
企業型DCで運用した資産は原則として60歳から受け取れます。逆にいえば、60歳までは原則として受け取ることはできません。ただし、加入途中に亡くなった場合や一定の身体障害の状態になった時には、死亡一時金もしくは障害給付金として受け取れます。
受け取り開始時期は60歳から75歳の間で自由に選べます。ただし、60歳の時点で企業型DCの加入期間が10年に満たない場合は、加入期間に応じて受け取り開始時期が61歳~65歳まで先延ばしになります。
また、受け取り方も一時金として受け取る方法と、年金形式で分割して受け取る方法、また一時金と分割の併用の3つから選ぶことができます。
年金形式で分割して受け取る場合は、分割回数を選び、受け取る形になります。また、一時金と分割の併用を選ぶ場合は、一時金で受け取る額を決め、残りの金額について分割回数を決める形になります。
企業型DCは転職・退職したらどうなるの?

企業型DCに加入している間に転職もしくは退職する可能性があります。その場合は、退職から6ヶ月以内に移管手続きを行わなければなりません。持ち運びができる点が確定拠出年金のメリットですが、期限がある点に注意しておきましょう。
移管手続きは退職後の状況によっても異なるため、ここではケースごとに解説します。
転職先で企業型DCに加入する
転職先に企業型DCの制度が用意されている場合は、転職先の企業型DCにこれまでの資金を移管できます。
まず、転職先の会社に自分が確定拠出年金の口座を持っていることを伝え、転職先の会社の指示にしたがって移管手続きを行うことで、これまでと同じように運用できます。ただし、選べる運用商品は企業によって異なりますので、新たに運用する商品を選びなおさなければなりません。
転職先で企業型DCに加入しない場合はiDeCoへ移管する
転職先に企業型DCが用意されていない場合や、企業型DCが用意されていても加入を希望しない場合は、これまで貯めた資金を個人型確定拠出年金(iDeCo)に移管しなければなりません。
iDeCoへの移管手続きは自分で行わなければなりませんので、企業型確定拠出年金の資格を喪失してから6ヶ月以内に行うようにして下さい。
iDeCoに移管した後は、これまでのように自分で掛金を拠出して運用していくか、掛金の拠出はせずに運用だけを行う方法のどちらかを選べます。また、運用商品は、iDeCoの口座を開設する金融機関によって異なるため、新たに選び直す必要があります。
自営業・公務員・専業主婦(主夫)になる場合もiDeCoへ移管する
退職後に自営業者になる場合や、公務員もしくは専業主婦(主夫)になる場合も個人型確定拠出年金(iDeCo)への移管手続きが必要です。
その場合も、資格喪失後6ヶ月以内に金融機関でiDeCoの口座開設を申し込み、移管手続きを行うようにして下さい。
移管後は掛金を拠出して運用するか、運用だけを行うかを選び、新しい運用商品を選択して運用を行うことになります。
移管せずに放置するとデメリットが多い
転職後はなにかとやることが多く、移管手続きを後回しにしてしまう人も少なくありません。しかし、6ヶ月以内に移管手続きを行わなかった場合、国民年金基金連合会に自動的に移管されてしまい、移管手数料も引かれてしまいます。
また、自動移換されたあとは、運用を行えないにもかかわらず毎月の手数料が引かれてしまう状態になってしまうため、それまで貯めた資金が減ってしまいます。
さらに、自動移管したまま放置している期間は給付金を受け取る際の要件となる通算加入期間に算入されません。その分、受給開始時期が遅れてしまうおそれがあるため注意が必要です。
移管せずに放置してしまうとデメリットが多いので、忘れずに期限内に手続きを行うようにして下さい。
企業型DCは税金面のメリットが多い資産運用
企業型DCは、運用益が非課税になり、受取時にも税制優遇の適用が受けられます。多くの税制優遇を受けながら老後資金を形成する手段ですので、勤務先の企業に企業型DCが用意されているならぜひ利用することをおすすめします。
ただし、転職や退職時には6ヶ月以内に移管手続きを行うことを忘れないようにして下さい。
なお、企業型DCはマッチング拠出制度を利用することで、掛金を上乗せして積み立てることができます。従業員が拠出した掛金は全額所得控除の対象になりますので、余裕がある場合はマッチング拠出制度の利用も考えてみましょう。