「将来、老後資金が不足するのでは」「年金には期待できないかも」と不安を感じている人は多いのではないでしょうか。
この記事では、公的年金はどんなときにいくらくらい受け取れるのか、老後の収入と支出の平均値、不足する老後資金を準備する方法などについて解説します。
資産形成や民間の年金保険への加入などを検討する前に、 今すでにどれくらいの保障があるのか知っておきましょう。
目次
- 公的年金制度とは?
- 公的年金制度の仕組みとは?
- 公的年金に加入していると受け取れる3種類の年金とは?
- 将来公的年金制度からいくら受け取れるのか?
- 老後にかかる1カ月当たりの生活費の目安は?
- 準備しておくべき老後資金はいくら?
- 平均値との差が大きい場合は、現役時代の支出から老後の生活費を算出してみよう
- 不足する老後資金はどのように準備すればよい?
- 老後も受け取れる収入を確保する
- 公的年金だけでは不足する部分を自分で準備しよう
公的年金制度とは?
公的年金制度は、国の社会保障の1つです。高齢で働けなくなったときなど、将来のリスクに備えるために社会全体で支え合う仕組みになっています。
詳しくは後述しますが、公的年金は「老後」だけでなく、障害を負ったときや家族が亡くなったときにも年金を受け取れる可能性があります。
日本では、20~59歳のすべての人が加入する「国民年金」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」の2種類があります。職業や働き方などによって加入している年金制度が異なるため、自分の場合はどうなのか、どこまで守られている状態なのか知っておくことが大切です。
公的年金でも、もしもの時に役立つ点や保険料を支払っている点は、民間の保険会社が提供している保険商品と同じです。
民間の保険に加入する前に、公的年金でどれくらい備えられているのかを知っておけば、「保険の入りすぎ=保険料の無駄」を最小限に抑えられるでしょう。
公的年金制度の仕組みとは?

前述のとおり、日本の公的年金制度には「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。年齢などの条件を満たした人は、これらに加入する義務があります。
さらに、加入したい人だけが加入する年金制度もあります。加入義務のある「公的年金」に対して、任意加入で上乗せできる年金制度は「私的年金」と呼ばれています。
日本の年金制度は、上図のとおり3階建ての構造になっています。それぞれ解説します。
『国民年金』で必要最低限の保障を準備する
幅広く多くの人が加入しているのが「国民年金(基礎年金)」です。年金制度の1階部分、つまり土台となる重要な制度です。これがすべての年金制度のベースになるため、国民年金に加入せず、厚生年金やiDeCoなどの私的年金にだけ加入するということはできません。
国民年金に一定期間(原則10年)以上加入していると、老後に「老齢基礎年金」を受け取れます。
国民年金に加入している人(被保険者)は、以下の3種類にわかれます。
対象者 | 保険料負担 | |
---|---|---|
第1号被保険者 | 20~59歳の自営業者、農業者、学生、無職の人など | 自分で納付(2024年度は月額1万6,980円) |
第2号被保険者 | 会社員、公務員など | 厚生年金保険料とあわせて給与から天引きで納付 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養されていて、年収130万円未満で20~59歳の配偶者 | 自己負担なし(配偶者が加入する年金制度が負担) |
第1号被保険者は、自分で口座振替やクレジットカード納付の申込み手続きを行う、もしくは自宅に届く納付書を使って納付するなどの対応が必要です。第2号被保険者は、勤務先が年金関係の手続きや納付を代行してくれます。
第3号被保険者は専業主婦などが想定されていて、自分で保険料を支払う必要がありません。なお、国民年金など社会保険の扶養は、所得税法上の扶養とは基準が異なるので注意しましょう。
会社員・公務員には『厚生年金』のより手厚い保障がある
会社員や公務員など、前述の第2号被保険者にあたる人は「厚生年金」にも加入します。正社員に限らず、労働時間などの条件を満たす人は、パートやアルバイトであっても加入の義務があります。
厚生年金に加入していると、加入期間や加入中の収入などに応じて「老齢厚生年金」を受け取れます。原則として、給与水準が高かった人ほど将来の年金額が多くなります。
なお、厚生年金は保険料も収入によって異なり、月給の18.3%(会社と折半するので自己負担は9.15%)と定められています。
企業または個人でさらに多くの年金を準備することもできる
国民年金や厚生年金に追加して加入できるのが「私的年金」で、年金制度の3階部分にあたります。以下のような種類があります。
【第1号被保険者(自営業者など)が対象】
・国民年金基金
・付加年金
【第2号被保険者(会社員など)が対象】
・企業型確定拠出年金
・確定給付企業年金
・厚生年金基金
【第1号・第2号・第3号被保険者が対象】
・iDeCo(個人型確定拠出年金)
上記のような制度を利用することで、公的年金+αの年金を、企業または個人で準備できます。
公的年金に加入していると受け取れる3種類の年金とは?
年金というと老後に受け取れる「老齢年金」を思い浮かべる人が多いですが、それだけではありません。公的年金に加入している人は「障害年金」や「遺族年金」も受け取れる可能性があります。3種類の年金についてそれぞれ解説します。
65歳以降に受け取れる『老齢年金』
老齢年金は、保険料を納付した期間や免除された期間などを合算して10年以上ある場合に受け取れます。
「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」にわかれていて、国民年金の加入者は老齢基礎年金を、厚生年金の加入者はそれに加えて老齢厚生年金も受け取る仕組みになっています。
老齢基礎年金の金額は、加入期間や保険料の納付状況によって決まります。老齢厚生年金は、加入期間や納付状況のほか、加入中の収入も影響します。
老齢年金の受け取り開始は原則として65歳からですが、60~75歳までの間で選択できます。60~65歳までに受け取ることを「繰上げ」といい、早くするほど年金額が下がります。逆に、66~75歳で受け取るのは「繰下げ」といい、遅くするほど年金額が上がります。
老齢年金の金額は人によって大きく異なるので、自分の場合はいくらくらいになりそうか確認してみましょう。厚生労働省の「公的年金シミュレーター」を使うとかんたんに試算できます。
万が一障害を負った場合に受け取れる『障害年金』
公的年金には、病気やけがなどで障害を負ったときに受け取れる「障害年金」もあります。
障害年金は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」にわかれていて、初診日(病気やけがで始めて医師の診療を受けたとき)に国民年金に加入していた人は「障害基礎年金」、厚生年金に加入している人はそれに加えて「障害厚生年金」を請求できます。
障害年金の金額は、加入している年金制度のほか、障害の重さや家族構成によっても差があります。

※金額は67歳以下(1956年4月2日以後生まれ)の場合(2024年4月以降)
※3級の最低保障額は年間61万2,000円(1カ月あたり約49,700円)
厚生年金では、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残った場合、障害手当金(一時金)を受け取れます。
遺された配偶者や子の生活を守る『遺族年金』
もしも亡くなってしまったとき、家族が受け取れる可能性があるのが「遺族年金」です。国民年金に加入している人が亡くなったときは「遺族基礎年金」、厚生年金に加入している人が亡くなったときはそれに加えて「遺族厚生年金」の対象になります。
遺族年金は、亡くなった人の保険料納付状況のほか、遺族の年齢、家族構成などによって受け取れる人や受け取れる金額が変わってきます。

※金額は67歳以下(1956年4月2日以後生まれ)の子のある配偶者の場合(2023年4月以降)
※1 年齢や優先順位などの条件があります。
遺族基礎年金は、子どもがいない場合は受け取れないので要注意です。遺族厚生年金は対象となる家族の範囲が広いですが、その中で最も優先順位の高い人が受け取れる仕組みになっています。
また、遺族厚生年金は、受け取る妻の年齢などの条件を満たすと「中高齢寡婦加算」や「経過的寡婦加算」などが上乗せされます。
将来公的年金制度からいくら受け取れるのか?

老齢年金はいくら受け取れるのか、具体的にシミュレーションしてみましょう。ここでは厚生労働省の「公的年金シミュレーター」を使って、1980年1月1日生まれ、国民年金の未納なし、60歳の誕生日を迎えた時点で退職し、65歳から年金を受け取る場合の年金額を試算します。
自営業者が受け取れる年金は月額約6.8万円
20〜60歳までずっと自営業だった場合、国民年金(老齢基礎年金)のみです。国民年金は20~59歳まで未納なしで加入すると、満額を受け取れます。
満額の場合、受け取れる金額は年間およそ82万円、1カ月あたりに直すと約6.8万円になります(※2024年度時点)
生涯平均年収400万円の会社員が受け取れる年金は月額約12.8万円
会社員の場合は、国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(老齢厚生年金)の両方になります。
23〜59歳まで会社員で、その間の平均年収が400万円だった場合、老齢年金の金額は年間およそ154万円、1カ月あたり約12.8万円(老齢基礎年金約6.8万円+老齢厚生年金約6万円)になります。
国民年金は原則59歳までの加入でしたが、厚生年金は原則69歳まで加入できます。そのため、65歳や70歳まで働いて保険料を納め続けることで、60歳で退職するよりも老齢厚生年金の金額を増やすことができます。
生涯平均年収800万円の会社員が受け取れる年金は月額約19.1万円
前述の試算と同じ期間で同じ働き方をして、年収だけ違う場合はどうなるでしょうか。
23〜59歳までの平均年収が800万円の場合、老齢年金の金額は年間およそ229万円、1カ月あたり約19.1万円(老齢基礎年金約6.8万円+老齢厚生年金約12.3万円)となります。
このように、厚生年金では年収が高い人ほど、老後に多くの年金を受け取れます。
老後にかかる1カ月当たりの生活費の目安は?
老後に受け取れる年金額がわかったら、次は、老後の生活にはいくらかかるのか確認しておきましょう。
両方の数字を比べれば、年金だけで生活できそうか、足りないならいくら不足するのか、いくら準備しておけば問題なく老後を送れそうかがわかります。
老後の最低日常生活費は夫婦で月額平均23.2万円
生命保険文化センターが行った「2022年度 生活保障に関する調査」では、老後の夫婦2人暮らし生活に最低いくら必要だと思うか尋ねたところ、平均で月23.2万円という結果でした。(集計対象:18~79歳、回答数:4,844)
最も回答が多かったのは「20~25万円未満(27.5%)」でしたが、次は「30~40万円未満(18.8%)」で、人によって差があります。
ゆとりある老後生活には夫婦で月額平均37.9万円必要
前述の調査で、さらに、経済的にゆとりのある老後生活を送るためにはあといくら必要だと思うか尋ねたところ、平均は月14.8万円でした。
「最低限の日常生活費」と「ゆとりのための上乗せ額」を合わせた「ゆとりある老後生活費」は、平均で月37.9万円となっています。
ちなみに、ゆとりのための上乗せ額の使い道は「旅行やレジャー(60.0%)」が最多でした。その他、「日常生活費の充実(48.6%)」、「趣味や教養(48.3%)」、「身内とのつきあい(46.2%)」などが続く結果となっています。
高齢単身無職世帯の平均支出は月額約14.3万円
総務省の「家計調査(2022年)」によると、一人暮らしの高齢者(65歳以上・無職)の平均支出は、月14.3万円でした(税金や社会保険料の支出は除く)。
最も多い支出は「食費(26.2%)」で月3.7万円程度、次が「交際費(12.5%)」で月1.8万円程度となっています。ちなみに「住居(8.9%)」は月1.3万円程度なので、老後も賃貸暮らしで家賃がかかる人は、平均より生活費が高くなる可能性が高いでしょう。
準備しておくべき老後資金はいくら?
老後に向けて準備しておくべき金額は、人によって違います。目安として「(老後の収入-老後の支出)×退職時の平均余命」を目標に準備しておくのがおすすめです。
例として、上述の試算に登場した年収500万円の会社員(配偶者は国民年金のみ)の夫婦の場合、ゆとりある老後生活を送るにはどれくらいの老後資金が必要になるか計算してみましょう。
- ゆとりある老後生活費の平均:月37.9万円
- 年収500万円の夫妻の老齢年金:月24.1万円(夫:月17.5万円、妻:月6.6万円)
- 60歳で退職して90歳まで生きると想定
(37.9万円-24.1万円)×12カ月×30年=4,968万円
この例では、希望の生活を送るためには、老後資金として約5,000万円を準備しておく必要があるとわかります。
平均値との差が大きい場合は、現役時代の支出から老後の生活費を算出してみよう
現役時代の収入や支出の金額が、同世代の平均より著しく高い(低い)という人もいるでしょう。平均から大きく乖離している場合は、統計から導き出した平均値があまり参考にならないかもしれません。
たとえば、前述のとおり、老後も賃貸暮らしの人は平均よりも大幅に支出が多くなる可能性があります。家賃を平均住居費(単身:1.3万円、夫婦のみ:1.6万円)程度に抑えるのはかなり難しいからです。
そんなときは、自分の場合はどうなりそうか、1つ1つ考えて計算していくほうが確実です。たとえば老後の生活費なら、現役時代より減る支出(子にかかる費用、仕事関連の支出、住居費等)と増える支出(医療費、余暇費等)を考慮して、月々必要な金額を予測してみましょう。
不足する老後資金はどのように準備すればよい?

公的年金だけでは老後資金が足りないことがわかった場合、どのような対策が有効なのでしょうか。ここでは、以下の3つの方法を紹介します。
- 預貯金で準備する
- 投資信託などを活用して資産運用する
- 老後も受け取れる収入を確保する
それぞれ見ていきましょう。
預貯金で準備する
老後資金を確保する方法として、最も多くの人がイメージしやすいのが「預貯金」ではないでしょうか。毎月少しずつコツコツと貯めていく、オーソドックスな方法です。
上述の計算方法で「老後の不足額」の目安がわかったら、それを老後までの期間で割ることで、今からいくらずつ貯めていけば間に合うのか逆算できます。
預金や貯金は定番の方法ではあるものの、銀行に預けても利回りが低いというデメリットがあります。
「元本保証だからリスクがなくて安心」と考える人も多いですが、インフレ(物価が上がり続ける状態)が続くと、お金の価値が下がって実質目減りしてしまう可能性があります。
投資信託などを活用して資産運用する
預金や貯金に存在するインフレリスクを抑えるために有効なのが、資産運用です。資産運用にもリスクはありますが、預金と異なるリスクを持つ投資商品を活用することで、どんな経済状況になっても対応できる強い資産を築けます。
資産運用にもさまざまな種類がありますが、しばらく使う予定のない余裕資金を投資信託などで運用する方法が一般的です。近年はNISAやiDeCoといった投資に関する税制優遇制度もあります。
老後も受け取れる収入を確保する
月数万円程度でも定期的に受け取れる収入があれば、老後の資産の減少速度をゆっくりにすることができます。
たとえば、民間の年金保険、不動産からの家賃収入、株・投資信託等からの配当収入などを受け取れるよう、早いうちから準備しておくのも1つの方法です。
もちろん、老後も働いて収入を得続けられるよう、スキルや体力などを身に付けておくのも有効な対策といえます。
公的年金だけでは不足する部分を自分で準備しよう

公的年金には、老齢年金だけでなく障害年金や遺族年金もあるなど、私たちには既に手厚い保障が備わっています。
「老後資金が足りない」といったニュースを聞いて不安になり、焦って民間の保険を検討している人もいるかもしれません。しかし、保険を検討する前に、自分の場合はどんなときにいくら受け取れるのか確認して、いくら足りないのかを知ることが大切です。そして不足分を貯蓄や私的年金などを活用してカバーできないか考えます。それでも保障が不足する場合は、民間の保険を検討します。自分で保障を準備する際には、この順番を守ることが無駄を省くコツです。
少々手間に感じるかもしれませんが、将来の支出や収入を事前にシミュレーションしておくことで、自分に合った資金準備を高い精度で行えるでしょう。
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