「もし自分が働けなくなったら……」と不安に感じている人もいるでしょう。
経済的な不安をやわらげるには、自分で保険に入るのも1つの方法ですが、実は多くの労働者が加入している労働保険(雇用保険・労災保険)や社会保険(健康保険)でも、働けなくなった人をサポートする仕組みがあります。
この記事では、失業や休業の際の公的補償の内容について解説します。
目次
- 労働者が加入している労働保険とは?
- 失業した場合にはどのような補償がある?
- 働けなくなった場合にはどのような補償がある?
- 病気やけがをした場合にはどのような補償がある?
- 死亡時や障害が残った場合にはどのような補償がある?
- 労働者には手厚い補償があることを理解しておこう
労働者が加入している労働保険とは?
日本には、もしものときに備えて加入する公的な保険制度があります。
なかでも、仕事に関する病気やけがのときに役立つ「労災保険(労働者災害補償保険)」と、失業時や育児・介護休業時の支えとなる「雇用保険」をあわせて「労働保険」と呼びます。
労災保険は、すべての労働者が加入する保険です。雇用保険は、所定労働時間が週20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある労働者なら加入しています。
ここでいう労働者とは「雇用されて賃金を受け取っている人」のことで、正社員だけでなくパート・アルバイトなども対象になります。一方、自営業者など雇用されずに働いている人は、原則として加入できません(一部の業務に関して特別加入制度あり)。
多くの労働者は労災保険・雇用保険・健康保険に加入しているため、自分で生命保険などに加入しなくても、必要最低限の補償がすでに備わっています。
対して、これらの公的保険に加入していない自営業者などの場合は、もしもに備えて自分で対策しておく必要があるでしょう。
失業した場合にはどのような補償がある?

もし失業した場合、公的保険からどのような補償を受けられるのか解説します。
失業時に役立つのは「雇用保険」です。雇用保険は労働者の生活と雇用の安定、就職の促進を目的として運営されており、さまざまなサポートを受けられます。
雇用保険から一定期間基本手当を受け取ることができる
失業した場合、以下の2つの条件を両方満たしていれば、雇用保険から「基本手当(通称:失業手当)」を受け取れます。
- 雇用保険の受給要件
ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にある
原則として、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12カ月以上ある
受け取れる期間や金額は、離職理由や年齢などによって異なります。目安は「離職前の給料の50~80%×90~360日」です。
原則として、倒産や解雇など会社の事情で失業した人や、障害などで就職が困難な人などは受け取れる期間が長くなります。
雇用保険を利用して再就職や転職のサポートを受けられる
雇用保険では、再就職に向けたサポートや、転職に役立つスキルの習得支援などを受けることも可能です。
たとえば、月10万円の給付金を受給しながら無料の職業訓練を受講できる「求職者支援制度」があります。この制度では、ハローワークによる就職サポートも付いていて、職業訓練を受ける施設まで行くための交通費なども支給されます。
その他、早期に再就職できたときに受け取れる「再就職手当」、所定の資格取得講座などを受講した際の費用の20~70%を受け取れる「教育訓練給付」といった制度もあります。
働けなくなった場合にはどのような補償がある?
病気やけが、親の介護など、さまざまな事情で急に休業が必要になる可能性は誰にでもあります。
もし働けなくなった場合、社会保険でどのような補償を受けられるのか解説します。
仕事中や通勤中の事故が原因の場合は労災保険から休業給付を受けられる
仕事や通勤が原因のけがや病気で働けなくなり、勤務先から賃金を受け取っていない場合は、労災保険の「休業(補償)給付」を利用できます。休業(補償)給付は休業4日目から支給され、金額は以下のとおりです。
- 休業(補償)給付…(給付基礎日額×60%)×休業日数
- 休業特別支援金…(給付基礎日額×20%)×休業日数
条件にあてはまれば上記の両方の対象になるため、仕事を休んでいる間も「給料の約8割」が支給される計算です。
ちなみに、労災保険は勤務先が認めてくれない場合でも労働基準監督署に請求できます。
健康保険から傷病手当金を受け取れる
仕事中や通勤中なら「労災保険」ですが、それ以外の病気やけがは「健康保険」で保障されます。健康保険には「傷病手当金」という制度があります。
傷病手当金を受け取れるのは、以下の4つの条件をすべて満たしている場合です。
- 業務外の事由による病気やけがの療養のための休業である
- 仕事に就くことができない
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
- 休業した期間について給与の支払いがない
受け取れる金額の目安は「給料の3分の2」で、受け取れる期間は通算1年6カ月までです。
健康保険や傷病手当金については、以下の記事で詳しく解説しています。
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家族の介護のために働けなくなった場合には雇用保険の介護休業給付がある
家族の介護をするために休業する場合に受け取れる給付金もあります。それが雇用保険の「介護休業給付」です。
受け取れるのは、家族の介護のために「介護休業」を取得した人で、介護休業開始前の2年間に被保険者期間が12カ月以上ある人です。
なお、介護休業とは要介護状態(病気やけがなどにより、2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態)にある家族(配偶者、親、子、祖父母、兄弟姉妹など)を介護するための休業を指します。
介護休業給付で受け取れる金額は「給料の約67%」で、介護する家族1人につき93日を限度に3回までと決められています。
病気やけがをした場合にはどのような補償がある?

病気やけがの際は、休業の有無に関係なく、医療費の負担を抑えるための公的制度を利用できます。
続いて、病気やけがの場合に、労働保険や健康保険からどのような補償が受けられるのか解説します。
仕事中または通勤中のけがは労災保険でカバーされる
仕事中や通勤中のけがは、労災保険でカバーされます。
労災保険は健康保険よりも手厚く、治療にかかった費用の全額が補償される仕組みになっています。傷病が治癒(症状固定)するまでずっと無料で受診でき、場合によっては通院費用(交通費)も全額支給されます。
なお、通勤中のけがであっても、途中で逸脱または中断(娯楽目的で寄り道をするなど)があった場合には、労災保険の対象外になる可能性があります。その場合は通常の病気やけが同様、健康保険を利用できます。
また、もし労災事故によって障害が残ったときは「障害(補償)給付」として年金または一時金が、介護が必要な状態になったときは「介護(補償)給付」として介護費用が支給されます。
仕事が原因で病気をした場合も補償の対象
けがだけでなく、病気の場合も労災保険の対象になる場合があります。治療費が全額補償される「業務上疾病」として認められるには、その病気と業務との間に相当な因果関係がある必要があります。
たとえば「仕事中に使った薬品で中毒を起こした」など、業務内で健康障害を起こすに足りる有害因子の量、期間にさらされた場合に対象になります。業務時間中に発症したかどうかは問われません。
病気の場合も、上述のけがのとき同様、条件を満たせば「障害(補償)給付」や「介護(補償)給付」を受けられます。たとえば障害(補償)給付の年金は、障害の程度に応じて以下の金額が受け取れます。

※同一の災害により、既に傷病特別支給金を受けた場合は、その差額となります。
仕事に関係ない場合も健康保険を利用して医療費負担を抑えられる
仕事に関係のない病気やけがの場合は、「健康保険」で負担を抑えられます。
健康保険を使うと、医療費の自己負担が1~3割で済みます。さらに、それでも負担が大きくなる場合には「高額療養費制度」も利用できます。高額療養費制度では、医療費負担が1カ月の上限額を超えたときに、超えた分が支給されます。
たとえば年収500万円ほどの人の場合、医療費が100万円かかったとしても、3割負担で30万円になり、さらに高額療養費制度が使えるので実際の自己負担は9万円程度まで抑えられます。
死亡時や障害が残った場合にはどのような補償がある?
最後に、万が一死亡したり障害が残ったりした場合には、公的保険からどのような補償が受けられるのか確認しておきましょう。
勤務中・通勤中の事故等が原因なら労災保険から年金や一時金を受け取れる
仕事が原因の病気やけがで亡くなったり障害が残ったりしたときは、労災保険から年金や一時金を受け取れます。
障害が残ったときは前述の「障害(補償)給付」、亡くなったときは「遺族(補償)給付」や「葬祭料等(葬祭給付)」の対象になります。ただし、障害の程度によって受け取れる金額が違ったり、遺族の年齢や収入に条件があったり、細かいルールが定められています。
遺族(補償)給付で受け取れる内容や金額は以下のとおりです。
遺族数 | 遺族(補償)等年金 | 遺族特別支給金(一時金 | 遺族特別年金 |
---|---|---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) | 300万円 | 算定基礎日額の153日分(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分) |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 | |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 | |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
また、葬祭料等(葬祭給付)の金額は「31万5,000円+給料の約30日分」です。ただし、この金額が給料の約60日分未満のときは、給料の約60日分が支給されます。
厚生年金から障害年金や遺族年金を受け取れる
仕事以外の病気やけがで受け取れる可能性があるのが「障害年金」や「遺族年金」です。障害が残ったときの障害年金は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」、亡くなったときに家族が受け取れる遺族年金は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」にわかれます。
会社員など厚生年金に加入している人は、国民年金(基礎年金)だけでなく、より手厚い障害厚生年金や遺族厚生年金も受け取れる可能性があります。
遺族年金や障害年金について、詳しくは以下の記事で解説しています。
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労働者には手厚い補償があることを理解しておこう

会社員や公務員など雇用されて働いている人(労働者)は、労災保険・雇用保険・健康保険といった手厚い公的保障に守られていることが多いです。病気やけが、失業、死亡などさまざまなリスクに対して、自営業者などよりも充実した補償を受けられるでしょう。
民間の保険への加入を検討する際は、すでにある保障の内容をよく理解したうえで、足りない部分だけを補うようにしましょう。