前回のコラムでは、相場を正確に予測するのは難しいということをご説明しました。では、仮に相場がどう動くかがわかっていたとしたら、正しく行動することはできるのでしょうか。
人間の脳が正しい行動を妨げる
結論から先にお伝えすると、相場を正しく予測できたとしても、正しく行動できるとは限りません。そもそも人間の脳は、資産運用に向いていないからです。
行動経済学の研究では、人間の直感が正しい投資行動を妨げてしまうことを示す、多くの研究が行われてきました。
一例を挙げます。
次の図の条件で、AさんとBさんが資産運用をしたとします。AさんとBさんの1年間の投資額はともに120万円ですが、始めた時期と毎月の積立額が異なります。
12月時点で、AさんとBさんのどちらが積立投資で資産をより増やしたか?
Aさんは、株価が1万円のときに資産運用をスタートしました。株価は下落して6,500円まで下がった後、回復して1万1,000円まで上昇しました。一方、Bさんは株価が底値の6,500円まで落ちて、回復し始めた時期にスタートしました。その後、株価は上昇を続けました。
12月時点で、AさんとBさんのどちらが資産をより増やすことができたでしょうか。
正解はAさんです。計算してみると、Aさんの資産は約154万円、Bさんの資産は約149万円となります。株価が下がる局面でも積立を続けていたAさんのほうが、より多く買えた分、リターンが高くなったのです。
株価の下落時も積立を続け、多く買えたAさんのほうが、12月時点のリターンが高くなった
※同一銘柄を同日に同じ価格で買い付けしたとして計算。小数点以下を切り捨てているため、毎月の購入株数と累計の購入株数が一致しません。
ここで大切なのは、問題に正解できたかどうかではありません。ポイントは、多くの人が「Bさんのほうが成績がよかったはず」と直感してしまうことにあります。
平均の購入価格を比べるだけなので、答えは計算すればすぐにわかります。しかし、実際には計算をせずにBさんを選ぶ人が大半です。直感があまりにも強く、冷静に計算して行動しようという思考を妨げるのです。
Bさんのほうが資産が増えそうだと思うのは、人間の心理として自然なことです。人間の脳は損失を嫌うため、株価が下がる局面をできる限り避けたいと思ってしまいます。
行動経済学の研究によると、同じ金額であれば、「損をすること」による感情の揺れが、「得をすること」による感情の揺れの約2倍になるそうです。
長期投資を成功させるには、直感に従って行動しないことが大切
ウェルスナビのお客様の行動データからは、損益がマイナスになる経験をした後、再びプラスに戻ったタイミングで資産運用をやめてしまいやすいことがわかっています。この行動もまた、「同じ経験はもうしたくない」という、損を嫌う自然な気持ちが影響しています。
一方で、コロナ・ショックのような過去の大きな相場下落を振り返ると、マイナスからプラスに戻ったタイミングで売らずに、その後も淡々と資産運用を続けていれば、相場は中長期的に上昇し、その恩恵を受けることができました。
長期投資を成功させるには、直感に従わないことが大切です。人間の脳は資産運用に向いていないという前提に立ち、あらかじめ決めた方針で淡々と運用し続け、長い目でリターンを狙いましょう。
- コラムに関する注意事項
- 本資料の情報は、公開日時点のものです。公開日時点で一般に信頼できると思われる情報に基づいて作成していますが、情報の正確性や完全性を保証していません。当社は、新しい情報や将来の出来事その他の情報について、更新又は訂正する義務を負いません。
本資料は断定的判断を提供するものではありません。最終的な決定は、お客様自身で判断するものとし、当社はこれに一切関与せず、一切の責任を負いません。
本資料に基づいて被ったいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いません。